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2023.02.27

⼯業製品に⽋かせない銅の特徴と種類①「純銅」編

⼯業製品に⽋かせない銅の特徴と種類①「純銅」編イメージ|共和電機工業
はじめに

こんにちは。私たちは銅加⼯・⾦属加⼯で約100年の歴史をもつ共和電機⼯業です。

当コラムでは、銅をはじめ⼯業製品に⽤いられる各種の⾦属材料や加⼯法について、また⾦属加⼯の図⾯の基礎知識などもお伝えしていきます。

少々マニアックな話も出てきますが、機械部品などの材料選びや設計のご参考になれば幸いです。

今回は、私たちが⽇頃から最も多く加⼯している「銅」の特徴・特性、そして⼯業⽤の銅の中でも純度の⾼い「純銅」について解説していきます。

導電性ピカイチの銅。
他にもいろいろなメリットが!

⼯業製品に⽋かせない銅の特徴と種類①「純銅」編イメージ|共和電機工業

まずは、銅の基本的な性質及びさまざまなメリットをご紹介します。

導電率が⾼い(電気を通しやすい)

銅の最⼤の強みは、電気の流れやすさを表す「導電率」が⾮常に⾼いことです。(逆に⾔えば、電気の流れにくさを表す「電気抵抗率」が⾮常に⼩さい)⾦属材料の中でも銀に次いで2番⽬に導電率が⾼く、価格は銀の10分の1程度とコストパフォーマンスに優れており、特に電線や電気接続部には⽋かせない材料となっています。

弊社では、可とう導体、ブスバー、各種ケーブル、端⼦、コイルなどを製作しております。

※写真は⼀例です。

可とう導体
可とう導体
銅ブスバー(曲げ加⼯)
銅ブスバー(曲げ加⼯)
銅端⼦
銅端⼦
銅平⾓線コイル
銅平⾓線コイル
溶接⽤キャブタイヤケーブル
溶接⽤キャブタイヤケーブル
銅ブロック(削り加工)
銅ブロック(削り加工)

熱伝導率が⾼い(熱を伝えやすい)

熱の伝わりやすさを表す熱伝導率も、銀に次いで2番⽬に⾼く、全体にまんべんなく素早く熱を伝えます。

この特性を活かした製品として、弊社では電⼦機器などの放熱器・冷却器(ヒートシンク等)や、熱交換器などに⽤いられる銅パイプコイルを製作しております。

※写真は⼀例です。

加⼯中の⽔冷銅板(冷却銅板)
加⼯中の⽔冷銅板(冷却銅板)
銅パイプコイル
銅パイプコイル

耐⾷性が⾼い(錆びにくい)

錆びにくく腐⾷に強いのも銅の利点です。銅にも錆は発⽣しますが、銅の表⾯の錆は、内部の腐⾷の進⾏を抑える保護被膜として機能するのです。
この被膜は銅に変⾊をもたらしますが、よほど錆がひどくない限りは機械部品としての性能や強度には影響しません。
銅は他の⾦属に⽐べて海⽔に対する耐⾷性も優れており、⾃然環境によく耐える寿命の⻑い⾦属であると⾔えます。
なお、腐⾷に強いとはいえ硫酸などの化学物質には溶かされます。

⾮磁性(磁気を帯びない)

銅は磁場の影響を受けず、磁⽯を近づけても磁気を帯びることのない⾮磁性の⾦属です。
よって、磁気を排除する必要のある電気計器などの計測器や精密機器類の部品及びメッキに銅が適しています。また、⽕気厳禁の化学プラントなどで必須となる防爆安全⼯具にも銅が⽤いられています。

低温脆性がない(低温下で脆くならない)

低温脆性とは、温度低下によって⾦属組織が急激に脆くなる性質のことです。鉄鋼材料の多くは低温脆性があり、銅、ニッケル、アルミなどは低温脆性がありません。
中でも純銅(特に純度の⾼い無酸素銅)は、極低温環境でも強度を保つだけでなく、他の⾦属に⽐べて圧倒的に⾼い熱伝導率を発揮します。そのため極低温下で使⽤する熱交換器などに⽤いられています。

その他、リサイクル率の⾼さ、⾒た⽬の美しさ、抗菌作⽤をもつことも銅の有⽤性を⾼めており、銅は幅広い分野で活⽤されています。

銅は加⼯性も良いが、
熱には弱い

⼯業製品に⽋かせない銅の特徴と種類①「純銅」編イメージ|共和電機工業

銅は柔らかく粘り気があり、展延性(柔軟に変形する性質)が良いため、圧延加⼯・伸線加⼯が容易で、曲げ加⼯や絞り加⼯もしやすい材料です。

ただ熱に弱いという難点があります。
銅の融点(個体が融解し液体になり始める温度)は約1080℃で、⾦属材料の中ではやや⾼めですが、200℃を超えると軟化しやすくなります。(⼀部の銅合⾦を除く)
そのため、切削加⼯においては摩擦熱への対処など専⾨的な知識・経験・技術が求められる材料です。

⽤途としても、⾼温下での硬度・強度を求められる製品には向きません。
⾝近なもので例えると、熱伝導性を⽣かした調理器具として銅の鍋やエッグパンなどがありますが、銅の中華鍋はありません。強い⽕⼒にさらされる中華鍋には1000℃まで耐える鉄が使われます。

以上の利点・難点を踏まえると、銅という材料は、基本的には機械的性質(硬度、強度など)よりも物理的性質(導電性、熱伝導性、⾮磁性など)と化学的性質(耐⾷性)を活かすべき材料です。
また、銅は鉄やアルミなどに⽐べて価格が⾼いということもあり、機器の筐体・躯体ではなく、機器の性能を左右する部品に⽤いてこそ真価を発揮する材料だと⾔えます。

銅を⼤別すると
「純銅」と「銅合⾦」の2種類

さて、ここからは銅の種類の話に移ります。

銅の種類をざっくり分けると

  • 純度99.9%以上の「純銅」
  • 銅を主原料として他の⾦属元素を加えた「銅合⾦」

の2種類となります。

そもそも⼯業分野では、純度の⾼い純⾦属はあまり⽤いられず、他の⾦属を混ぜ合わせることで純⾦属の不都合な性質を改良した合⾦が⽤いられます。
例えば我々が普段「鉄」と呼ぶ⾦属は、ほとんどが純鉄ではなく「鉄鋼」つまり鉄をベースとする合⾦です。

銅も銅合⾦を⽤いることが多いですが、純⾦属(純銅)も⽤いられるという点が特殊です。
純度の⾼い純銅は、先に述べた銅本来の性質が強く、特に導電率・熱伝導率の⾼さが求められる場合には純銅が⽤いられます。

その純銅は3種類に分けられます。それぞれの特徴を⾒ていきましょう。

代表的な「純銅」の種類

純銅のベースとなるのは、粗銅を電解精錬した「電気銅」と呼ばれる銅地⾦です。

その電気銅に酸化処理を施し、硫⻩などの不純物を取り除きます。この過程で電気銅に酸素と⽔素が取り込まれるのですが、その後、溶解して材料として使いやすい形状に加⼯する中で、酸素を除去する脱酸処理が⾏われます。

この脱酸処理⽅法の違い及び残留酸素の量によって「タフピッチ銅」「リン脱酸銅」「無酸素銅」に分類されます。
※さらに細かい分類もありますが、代表的な純銅はこの3種類です。

主な純銅3種の⽐較
タフピッチ銅 リン脱酸銅 無酸素銅
Cu純度 99.90%以上 99.90%以上 99.96%以上
酸素含有率 0.02〜0.05%程度
酸化銅を含む
0.01%程度
酸化銅は含まない
0.002%程度
酸化銅は含まない
導電率
(101%IACS)

(85%IACS)

(101%IACS)
熱伝導率
(391W/m K)

(339 W/m K)

(391W/m K)
強度
対・⽔素脆化 ×
⽤途例 電気ケーブル、ブスバーなど 熱交換器、給油機、ガス管など ⾳響機材⽤ケーブルなど

純度にしても酸素含有率にしても、数値の差はわずかですが、このわずかな差によってそれぞれメリット・デメリットが⽣じてきます。
下記にてポイントを説明いたします。

タフピッチ銅
【JIS 代表記号:C 1100】

コスパに優れるものの、⾼温加熱に向かない

タフピッチ銅(Tough Pitch Copper)は酸素含有率を0.02〜0.05%程度(酸化銅として含む)に調整した純銅です。

メリットは、より純度の⾼い無酸素銅と同レベルの導電率・熱伝導率がありながら、無酸素銅と⽐べ価格的に⼊⼿しやすい点です。下記のデメリットに注意すれば、電気・電⼦部品をはじめ幅広い分野で活⽤できます。

デメリットは、溶接など⾼温になる加⼯に向かない点です。
タフピッチ銅を600℃以上の⾼温で加熱すると、割れや⻲裂の原因となる「⽔素脆化」を引き起こす場合があります。

タフピッチ銅に含まれる酸素は導電性を⾼める効果がありますが、⾼温下では銅内部の酸素と⽔素が反応して⽔蒸気が発⽣し、内部に空洞が⽣じるなどして銅を脆くしてしまうのです。
よって、溶接、半⽥付け、ロウ付けなどの加⼯は適さない材料となります。

リン脱酸銅
【JIS 代表記号:C 1201/C 1220】

⾼温によるリスクなし、導電性はやや劣る

タフピッチ銅の⽋点である⽔素脆化への対策として、脱酸剤を⽤いて酸素を除去したものが「脱酸銅」です。溶解した電気銅に脱酸剤を添加し、溶存酸素を酸化物にして吸収・除去します。
この脱酸銅を代表するのが、リンを添加した「リン脱酸銅」です。
添加物としてはケイ素やマンガンも使⽤されますが、リンは特に酸素と結合しやすい性質をもつため、最もメジャーな添加物となっています。

添加されたリンは、脱酸後も微量ながら銅の中に残ります。この残ったリンが導電率を低下させるため、タフピッチ銅・無酸素銅に⽐べれば導電率が低くなります。

ですが、酸化銅は含まず、タフピッチ銅に⽐べて酸素含有量が⼤幅に少ないため、⾼温で加熱しても⽔素と反応せず、⽔素脆化が起こりません。溶接、半⽥付け、ロウ付けも問題ありません。
その特性を活かして、熱交換器、給湯器、給油機、ガス管などにも使⽤されています。

無酸素銅
【JIS 代表記号:C 1020】

最⾼性能だが、純度が⾼い分、強度はやや劣る

純銅の中で酸素含有率が最も低く(0.001%以下)酸化銅を含まず、リンなどの添加物も含まず、最も純度が⾼い(99.96%以上)のが「無酸素銅」です。

純度が⾼い分、銅の特性である導電性や熱伝導性が発揮されますが、柔らかさや粘り気も顕著で他の2種類より強度は劣ります。

価格も⾼くなるため、求める性能とコストのバランスが⼤事になってきます。
⽤途はタフピッチ銅やリン脱酸銅と重なりますが、⽔素脆化対策が必要で、かつ最⾼レベルの導電性が求められる場合に無酸素銅が選ばれています。
⼀般にメジャーな⽤途としては、⾳響機器分野で⾼級スピーカーケーブルによく⽤いられています。

また、無酸素銅の⼀種として真空溶解銅(別名・電⼦管⽤無酸素銅)と呼ばれる純度99.99%以上の無酸素銅があります。

導電性が極めて⾼く、真空環境下や極低温環境下でも使⽤できることから、海底ケーブルなどにニーズがあります。ただし熱伝導性も⾼いため切削加工の難易度が⾼くなります。

以上、今回は銅という⾦属材料の性質と、その性質を強くもつ純銅についてお伝えしました。
次回は、多種多様な「銅合⾦」の種類とそれぞれの特性について詳しく解説します。